「呼吸の奥に、宇宙がひらく」
山の庵にひとり座す男の前に、燃え尽きた炭火が静かに残光を放っていた。薄明の空気の中で、彼は目を閉じ、静かに呼吸をはじめた――。
一、長出入息呼吸法。
それは、まるで霧のように繊細で、川の流れのように長い呼吸。彼の肺は静かに広がり、また静かに収縮していく。一呼吸に、二十秒、三十秒、時に一分。命そのものが、空気にとけていく感覚だった。
「風と一体になれ……」
かつて師がそう言った声が、耳の奥に微かに蘇った。
二、出息呼吸法。
今度は、ただ息を吐くだけ。吸うことは意識しない。ただ、限りなく細く、長く、吐いていく。まるで己の内に巣食う煩悩を、一縷の糸のように外へ放つかのように。
吐く息の向こうには、空があった。
三、反式呼吸法。
彼は姿勢を変える。前頭部をほんの少し前へ出し、下顎をわずかに引く。胸は控えめに引き、腹はわずかに前へ出す。背筋をゆるやかに丸め、腹の空間を広げる。
息を吸うとき、腹がへこみ――吐くとき、ふくらむ。
世俗の呼吸と逆のリズム。だが、この逆転が、間脳への扉を開く鍵だと彼は知っていた。
四、強短息呼吸法。
最後に、彼は片方の鼻を指でふさぎ、もう片方の鼻で、短く、力強く、何度も呼吸する。
「火の呼吸法」と呼ばれるこの術は、眠るエネルギーを呼び覚ます。
鼓動が高まり、内なる炎が燃え上がる。だがそれは、破壊ではなく、浄化の火。
体の底から、何かが昇ってくる。命そのものが、燃えているようだった。
やがて、彼の内には静寂が訪れた。
だがその静寂は、世界の終わりではない。すべての始まりだった。




