光明の覚醒
夜の静寂に包まれた修行道場。微かな灯りが揺れ、修行僧たちの影を壁に映し出していた。堂内の中央には、一人の修行者——慧然(えねん)が座していた。彼の目は閉じられ、意識は深遠なる内界へと沈んでいた。
彼は「アージュニャー・チャクラ」の覚醒を目指していた。脳下垂体に宿るその力は、想像を絶する知性をもたらすという。一度見たもの、一度聞いた言葉を決して忘れず、いかなる理をも瞬時に見抜く。コトバという間接的な思考を超えた、純粋な悟性がそこにあった。
「……己の奥深くに光を見よ」
師の言葉が、過去の記憶の中で響いた。慧然は呼吸を整え、内なる光に意識を向ける。その瞬間、彼の脳裏に閃光が走った。知覚が拡張し、目に見えぬものまで手に取るように理解できる感覚。万物の構造が、瞬時に把握できた。
しかし、彼の旅はここで終わらない。さらなる高み——「サハスラーラ・チャクラ」の覚醒が待っていた。松果体に宿るその力は、究極の霊性をもたらすという。
ある夜、慧然は瞑想の中で己の魂が昇天するのを感じた。クンダリニーのエネルギーが脊柱を駆け上がり、次々とチャクラを解放していく。そしてついに、彼の意識はサハスラーラへと到達した。頭上にまばゆい光が満ち、時空を超えた無限の存在と融合する感覚に包まれる。
そのとき、慧然は悟った。
「私は、この世界に縛られているのではない。私は、この宇宙そのものだ」
彼はすべてのチャクラを自由に制御できる境地へと至った。超越者——大師となったのだ。物質の束縛を離れ、時間と空間の制約からも解き放たれた。しかし、この境地はあまりに危険でもあった。クンダリニーの覚醒は、一歩間違えれば破滅をもたらす。悟りを得るどころか、精神の均衡を失い、廃人となることすらあるのだ。
慧然は思った。
「私が得たこの力を、決して傲慢に使ってはならない。この道は、己だけでなく、他者のために歩まねばならぬ」
彼はゆっくりと目を開けた。そこには、変わらぬ夜の静寂。しかし、彼の内なる世界は、もはや以前とは異なっていた。
「私は光となろう。すべての魂を導く者として——」
慧然は合掌し、静かに懺悔文を唱えた。
「過去の悪業を悔い改め、心を清めよう。己の驕りを捨て、正しき道を歩まん」
こうして彼は、超越者としての第一歩を踏み出した。




