虚空蔵菩薩の蔵より
夜明け前の薄明かりが差し込む山寺。奥深い本堂には、静かに輝く虚空蔵菩薩の像が祀られていた。その名が示す通り、虚空蔵菩薩は宇宙そのものを思わせる無限の智慧と慈悲を内に秘め、人々の願いを叶えるためにその蔵から智慧を取り出すという。
香煙がたなびく堂内には、ひんやりとした静けさが漂っている。その中で、虚空蔵菩薩の穏やかな表情は、訪れる者の心に不思議な安らぎを与えていた。
「オン・バサラ・アラタンノウ・オン・タラク・ソワカ」
僧侶が繰り返す真言が、静寂の中に響く。その響きは、まるで無限の記憶と智慧が蔵から解き放たれる音のようだった。虚空蔵求聞持法――100万回もの真言を唱えることで無限の記憶力を得る修行。この地を訪れる人々は、かつて弘法大師が行ったというその壮絶な修行に思いを馳せる。
虚空蔵菩薩の智慧は、ただ記憶力にとどまらない。それは学問、芸術、商売、人生そのものにおいて人々を導く力となる。また、丑年や寅年に生まれた者たちにとっては、特に守り本尊として運命を照らす存在とされてきた。
本堂の隅にたたずむ一人の若い僧侶が、虚空蔵菩薩の前で深く頭を垂れていた。その心には、求聞持法の真髄に触れたいという熱い願いが秘められているのだろう。僧侶の静かな祈りと共に、堂内の空気がさらに清らかさを増していく。
虚空蔵菩薩の蔵は、訪れるすべての者の願いを受け入れ、必要な智慧や慈悲を無限に与え続ける。その存在は、果てしなく広がる宇宙そのもののように、時代を超えて人々を見守っている。
その日もまた、真言が響く堂内で、新たな祈りが捧げられていた。
「オン・バサラ・アラタンノウ・オン・タラク・ソワカ」
その声が届く先には、無限の蔵が静かに開かれていたのかもしれない。




