暗闇に包まれた三千世界。その中心に君臨するのは、全能の力を誇る大自在天、すなわちシヴァ神と、その妃である美しき鳥摩。彼らの周囲には欲望が渦巻き、激しい怒りの炎が燃え、愚かな妄念が深い霧のように漂っていた。仏教の教えを拒み、欲望の鎖に囚われ続ける二柱の存在に、天も地も沈黙していた。
しかし、沈黙を破る声があった。それは宇宙の中心、蓮華座に座す大日如来から放たれるものであった。彼の説法の響きは、光のようにあまねく広がり、無知と欲望に支配された世界に新たな希望をもたらそうとしていた。だが、大自在天と鳥摩の二神にはその光が届かない。彼らの心は堅く閉ざされ、真理の言葉を退けていた。
その時、大日如来は静かに目を閉じた。そして、彼の内に秘められた力が動き始める。変化身――降三世明王が生まれ出でる瞬間であった。
降三世明王の姿は恐ろしげであった。三つの目は真実を見抜き、牙をむく口は執着を断ち切る決意に満ちていた。その四本の腕は、それぞれ怒り、欲望、愚痴の象徴を打ち砕くための武器を携えていた。彼の降臨により、空間は振動し、暗黒は裂けるように退いていった。
明王は大自在天の前に立ちはだかった。声が低く、しかし力強く響く。
「オン・ソンバニ・ソンバウン・バザラウン・ハッタ――」
その真言は、宇宙を揺るがすほどの力を持っていた。三界の支配者たるシヴァ神ですら、その響きの中で動きを封じられる。鳥摩は驚愕に目を見開き、傲慢に満ちていたシヴァ神はその威光の前に震え始めた。
降三世明王はゆっくりと一歩を踏み出した。彼の目は炎を宿し、容赦なくシヴァ神を見据えた。次第に二神の力は薄れ、最後にはその膝を折った。三界の欲望、怒り、愚痴の象徴たるシヴァとその妃が、ついに仏法の力の前に降伏したのであった。
「これが真の力だ」と大日如来は穏やかに語りかける。「執着から解き放たれよ。そうすれば、真理は君たちを救うだろう。」
その言葉に、シヴァと鳥摩は静かに頭を垂れた。こうして三千世界に再び調和が訪れた。明王の恐ろしげな姿は消え、そこに残ったのは、静かな光を放つ大日如来のみであった。




