神人・小泉太志命
伊勢の生き神さま
[桐山]
わたくしと神界の浅からざる因縁それは神人・小泉太志命との出会いから始
この話は、古い信徒諸君なら何回も法話で耳にしているはずであるが、この本の 発刊を機に、改めて本書に納めておこうと思う。
あれは『変身の原理』が刊行された翌年のことであるから、もう三十年以上も昔
いまはもう亡くなられたが、当時、観音慈恵会 (阿含宗の前身)の幹部であった 照井愛子さんという人が、こういう話を持ってきた。
伊勢の生き神さまと呼ばれている小泉先生という方が、先生の『変身の原理』を 読んでたいへん感心され、お会いしたいとおっしゃっておられますが、お会いにな りますか?」
わたくしは、即座にうなずいた。どういう方であるか知らないが、生き神さまと いわれるほどの方ならば、会ってなにか得るところがあるだろうと思ったからであ る。
「お会いしてみたいですね。で、どういう方なんですか? 小泉先生という方は」 「お若いころは剣道の達人で、天覧試合にも選ばれて出たそうです。 のち、神道に 入って修行を積み、いろいろ不思議なお力を持たれるようになって、生き神さまと 呼ばれるようになったのだそうです」
「おいくつですか?」
「たしか、去年、還暦を迎えられたとお聞きしています」
ぜひ、お会いしたいものですね」
六歳のとき、藩の剣術指南番であった祖父に小さな木刀を持たされ、これが稽古 はじめだと言って、持っていた大きな木刀でポンと頭を叩かれ、以来、病床に臥す まで、剣道に励んだ経歴を持つわたくしは、剣の名人と聞いて、特に親近感をおぼ えたのである。
照井さんに案内されて、たそがれどきの近鉄線磯部駅に降り立ったのは、それか 一ヶ月ほどのちの晩春、 葉桜の季節であった。
駅を出ると、鬱蒼とした木立の中に、
の気に満ちた大きな神社があった。
もう日の暮れなので、その場で遥拝をし、神社と道ひとつをはさんで向かい合う
小泉先生のお宅に足を向けた。
小泉先生のお宅は、二階建ての宏壮な木造建築で、玄関に立つと、「小泉參剣道場」と雄渾な筆で書かれた看板がかかっていた。
小泉先生は、中肉中背であったが、剣術で鍛えた筋骨たくましく、さらに、眼光 々として、まさに神人と呼ぶにふさわしい気品を放たれていた。若く美しい澄子 夫人とともにわたくしを心から歓迎してくださった。
初めてお会いしたという感じがまったくなく、 応接間で、修行談に話がはずんだ。それは、結構な晩餐の間も続いた。気がつくと、だいぶ、夜も更けていた。
今夜は、桐山先生に、特別な部屋でおやすみいただきます。 これまで、どんな方 がおいでになられても、この部屋だけはお通ししたことがありません。 それは、神 さまの鎮まります部屋だからです。 しかし、桐山先生は特別な方ですから、今夜は この部屋に泊まっていただきます」
小泉先生はそうおっしゃった。
わたくしはびっくりして、
「それはとんでもないことです。そんな貴い部屋にやすむなど、困ります。わたく は道場の片すみで結構です。 そのほうが気楽ですから」
実際、神さまのいらっしゃる部屋などで眠れるものじゃないと思ったのである。 一晩じゅう、正座して合掌していなければならない・・・。
「いや、どうしてもそこにお泊まりください」
小泉先生はちょっと強い調子でおっしゃったので、そのお言葉に従うことにし た。
通された二階のその部屋は、十五、六畳くらいの和室であったが、厚いじゅうた んが敷き詰められ、立派な玉や、宝剣、神器などが奉安され、神々しい気に満ちて いた。
わたくしは、しばらく端座して、瞑想したのち、 床に入った。 間もなく眠気がさ して、深い眠りに入ったようであった。
ふと、目がさめた。
どこだろう?
どこだろう?
あたりを見わたすと、わたくしは、天井の高い、板敷きの剣術道場のような部屋 に座っているのであった。広さは二百坪くらいであろうか、一段高い上段の間に、 わたくしは一人、小さな箱のようなものに腰をおろしているのであった。
再び思う間もなく、部屋の両側の戸がさっと開いて、たくさんの人たちが入っ てきた。一列に入ってくる。
右の戸口から男性、左の戸口から女性である。みな、神代時代の服装である。 男
性は、ミズラを結い、太刀を働いている。女性は首から胸に玉や珠の輪をペンダ ントのように下げている。
男性はみな凛々しく、女性は美しかった。みんなわたくしのほうを見て、明るい 笑顔で笑いかけてくる。 わたくしの前を通るとき、立ち止まって、折り目正しい礼 をする。わたくしも笑顔で会釈し、礼を返す。
不思議なことに、わたくしは、彼ら、彼女らを、すべて知っているのである。 な んという名前で、どういう素性なのか、すべてわかっているのである。みんな、旧 知の間がらなのだ。不思議といえば、いつの間にかわたくしも、彼らと同じ服装を しているのである。これもまた、言葉と同じで、そのときはなんの違和感もないの である。
上段の間に座っているわたくしを前に、彼らは二重、三重の半円をえがいて、座 った。およそ、三、四百人くらいいたであろうか。男性が五人、女性が五人、いつ
の間にかわたくしの背後に座っている。 わたくしは彼らをよく知っている。わたく しの従者なのだ。
いっせいに、彼らは平伏した。
「お久しゅう」
と同音に声があがった。
わたくしはうなずき、 同じ意味の言葉を返した。会話が始まったが、すべて、古 代語神代時代の言葉であった。不思議なことに、わたくしはそれらの言葉を理 解するだけではなく、彼らと同じように口にしているのである。不思議なことに、 というのは、あとになって思ったことであって、そのときは、なんら不思議などと 感じず、当然のこととして会話を交わしていたのである。
そのとき交わした話の内容は、強く記憶していることもあるし、忘れてしまった ものもある。記憶していることは二種類に分類できる。わたくし個人にとって非常
に重要なことと、この世界にとって非常に重大なことと、この二つである。
およそ、二時間くらいたったであろうか、彼らは静かに座を立ち、同音に、「お 元気で」 という意味の言葉を口々にし、戸口に向かった。男は右、女は左の戸口か ら、一列に出ていった。
わたくしは右、左と、交々、手を振りながら、彼らを見送った。 最後の一人が姿 を消したとき、わたくしはふいに意識が朦朧となった。
ふっと、目がさめた。
どこだろう?
のである。
「なんだ、夢か」
もうろう
あたりを見まわすと、わたくしは、小泉參剣道場の神の間の、床の中に寝ている
わたくしは声に出して呟いて、枕もとの電気スタンドを明るくした
しかし、とわたくしは頭を振った。
とても夢とは思えない。 あの部屋の様子も、集まった人たちの一人一人の表情 も、ほんのいま会って別れた人のようにはっきりと思い出されるのである。いや、 板敷きの間の、あの冷えた感触が、腰のあたり、足の裏に、まざまざと感じられる ではないか。 とても夢とは思えない。
しかし、夢であることに間違いはない。
わたくしは、しばらくの間、まじまじと天井を眺めながら、もの思いにふけっ
そのうちに、再びわたくしは眠りに入った。
今度は、なんの夢も見ることのない熟睡であった。目がさめると、 壮快な気分で
あった。洗面して、神棚を拝し、朝の食卓に向かった。
いかがでした? 昨夜はよくおやすみになられましたか?」
小泉先生のお言葉に、はっと、昨夜の夢がよみがえった。わたくしは、箸を置い
「よくやすみましたが、とても不思議な夢を見ました」
わたくしは、昨夜見た夢をくわしくお話しした。
「小泉先生、この夢はどういうことなんでしょうか?」
同じく箸を置き、膝の上に手を置いて、じっとわたくしの話をお聞きになってお られた小泉先生は、わたくしの目を射るような眼光で見つめながら、お答えになっ
桐山先生 それは夢ではありません。 それは、実際にあったことなんです」
とわたくしは絶句した。
「夢ではない……?」
「元宮?」
「なるほど」
「神集い?」
「そうです」
た。
「夢なぞではない。実際に起こったことなんです。あなたは、昨夜、元宮に行っ て、昔の神々とお会いになったのです」
「そうです。 この道場の向こうにある神社のことです。あの神社は、伊雑宮と申し 上げるのですが、ここでは元宮で通っています。 伊勢の皇大神宮は、最初、ここに お祀りされた。のち、伊勢にお遷りになったが、最初、ここにお祀りされた。そこ 元宮と申し上げるのです」
「あなたはそこへ昨夜行かれて、神集いをされたのです」
小泉先生は、強い視線でわたくしを見つめながら、
「あなたは素戔嗚命の生まれ変わりなのです。あなたは昨日、ここに来られた。 そ れは、わたくしがお招きしたわけだが、実際は、神々があなたをお引き寄せになっ たのです。昨夜、神集いされた神々は、みな素戔鳴命の一族郎党たちです。だか ら、あなたは、みな、ご存じのはずなのです。 神集いされて、重大なお話がなされ そう聞くと、あなたは、なるほどとうなずくところがあるはずです」
わたくしの頭の中を走馬燈のように、昨夜の出来事がよみがえり、駆けめぐっ
わたくしは黙ってうなずいた。
桐山先生 あなたは、素戔嗚命の生まれ変わりであるから、国開きの大事業をな さねばならない。そういう使命を持っておられる。 あなたは荒ぶる神として恐ろし
い力を持つ。そして、古きものをすべて打ち破り、新しい秩序をつくり出す。それ あなたの使命なのです。これからあなたはたいへんな苦労をなさるでしょう。 多 くの人が、あなたを敵として攻撃してくる。国津神の子孫たちです。彼らは、天津 神であるあなたを本能的に憎み、滅亡させるために全力を挙げる。 彼ら、 国津神の 子孫たちは、そんなことは知らないが、理由もなしに、あなたを心から憎み、叩き つぶそうと攻撃してくる。一方、天津神の子孫たちは、そういうことは知らないけ れども、理由もなく、あなたを敬愛し、 あなたの味方となって、身命をなげうち、 あなたを助ける。
これから、敵、味方がはっきりします。 国津神の子孫は、すべて敵となるでしょ う。 天津神の子孫は強力な味方となる。 どちらも、そういうことは知らないけれど も、宿命的、本能的に、そうなるのです」
わたくしは、じっと聞き入った。
「あなたは、非常な苦労をされるが、多くの人があなたを助けるから、国開きの大 業は必ず成就するでしょう。 それは、神々の助けなのです。 神々があなたを助ける から、どんな難関も乗り越えて、あなたは大業を成就する。わたくしもまた、これ から、毎夜、神剣を振るって、あなたの大業成就、息災長寿を祈念してさしあげま す
ありがとうございます」
わたくしは、心の底から、お礼の言葉とともに、小泉先生に合掌した。
小泉先生は、最後に、にっこり笑って、こうおっしゃった。
「国津神の子孫たちも、最後にはみな帰伏して、あなたに忠誠を誓うようになるの
です。 それは、歴史を見ればわかるとおりです」
声をあげて、笑われるのであった。
以来、三十数年の歳月が流れた。目をつぶると、あの一夜の記憶がいまもなお、
まざまざと脳裡によみがえってくる。 そしてー。
おもしろいことがあるのだ。
それは、あの磯部の神集いの中にいた顔を、わたくしは、これまでにお会いした 人びとの中に、何人も見出しているのである。 そういう顔は、いまもわたくしの周 囲にたくさんいるし、これからも次々と現れて、わたくしを助けてくれることにな るのであろう。わたくしが、人に会うことが好きなのは、おそらくその顔を発見す ることがとても楽しいからではなかろうか。
神界・仏界からの詔勅くだる
神人・小泉太志命との出会いから約二十年たった、一九九〇年十月九日の未明、
突然、わたくしは神界から詔命を受けた。
しかし、その十年前の一九八〇年、聖地インドの釈尊説法の地サヘート・マヘー トで、わたくしは仏勅を受けていたのである。
この間の状況を簡単に記しておこう。
ひがしの国に聖地をつくれ
小泉先生が発せられた言霊、その神意は、当時のわたくしには計るべくもなかっ 小泉先生との出会いを機に、わたくしは、古代神法を含めていっそう修行を 重ねていた。その一方で、小泉先生とお会いした前後から、わたくしは仕事に忙殺 されるようになっていった。わたくしは、自分自身の因縁を透視し、自分の未来の 予測は、自分なりについていた。 『変身の原理』刊行も、それを機にわたくしの仕 事の範囲が飛躍的に拡大するであろうことも、予測の範囲であった。