UA-135459055-1

サヘト・マヘト ― 聖なる地 輪転生聯想法 ― 明星の覚醒

サヘト・マヘト ― 聖なる地

輪転生聯想法 ― 明星の覚醒

「そうか!」

私は、力いっぱい膝を打った。
その瞬間、胸の奥にひとつの光が閃いた。
「そうか……これが、明星だったのか!」

叫びとともに、私の視界の中で何かが爆ぜた。
それは比喩ではない。本当に、目から火が出たのだ。
刹那、鼻をつく焦げたような匂い――どこか懐かしい、剣道場の面金の中で嗅いだあの匂い。
ブーンという振動とともに、光が視野の奥を走り抜けた。

外から何かが頭を打ったわけではない。
それなのに、私の脳の内部で――まるで雷が走ったような衝撃。
あの火は、確かに内側から生まれたのだ。

私は再び姿勢を正し、呼吸を調えた。
頭の角度をわずかに変え、ある“定”の形に入っていく。
息を数え、意識を一点に沈める――すると。

何の予兆もなく、また同じ場所に火が灯った。
そして同時に、頭の深奥からかすかな音響が響きはじめた。
「来る」と思った瞬間には、もうその光があった。
だが、今度は痛みも恐怖もなかった。ただ、静謐な震えだけが残った。

私の頭の内奥に、明星がまたたいていた。
その中心から、言葉にならぬ喜びが溢れ出していた。

――まちがいない。脳の深部で、何かが起こっている。
しかしそれは、単なる錯覚ではない。
私の理解を超えた、化学的な異変だった。

それは「視床下部」――心と身体をつなぐ間脳の要。
そこに、未知の反応が起きていた。
私は古代ヨーガの秘法をもとに、自らの姿勢とムドラーを組み合わせ、
百日のあいだ、その一点に思念と圧力を集中させていたのだ。

精神の炎と、肉体の緊張。
それらが絡み合い、ついに視床下部の神経を震わせたのだろう。
神経液が変化し、分泌液が混ざり合い、
脳の奥で小さな雷鳴のような化学反応を起こした。

あの閃光は、その衝撃が視床の神経を打ち、網膜に走った電の火だった。
そしてその瞬間、私の中で**新たな神経の結び目(シナプス)**が生まれた。

それ以来、私は思念を向けるだけで、いつでも脳内に明星を輝かせることができるようになった。
脳は変わった。意識の構造そのものが変わったのだ。

求聞持聡明法――それは単なる呪法ではなかった。
それは、脳の内部における化学的覚醒、
輪転する生命の回路が新たに開く、
「輪転生」の法であった。

 

脳という宇宙の祭壇 ― 神経と霊の交響

私は、光が去ったあとの沈黙の中に座っていた。
視界は暗く、音は遠く、ただ自分の呼吸の音だけが聴こえる。
だが、その呼吸はもう以前の呼吸ではなかった。
吸うたびに、微細な電流が頭の中心を通り抜け、
吐くたびに、身体の輪郭がぼやけていく。

脳が、音を発している。
耳ではなく、脳そのものが鳴っているのだ。
「視床下部共鳴音」――そう名づけてもいい。
低く、しかし澄んだ音。まるで地球の自転音が、個の内部に転写されたような。

私は机にノートを開いた。
「視床下部は、神経と内分泌の交差点である」
そう書き出して、しばらくペンを止めた。
この場所こそ、古代が“サハスラーラ”と呼んだ領域ではないのか?
それは千の花弁を持つ蓮――すなわち、神経の花。
科学の言葉でいえば、シナプスの曼荼羅。

光は物理現象だった。
だがその発火は、同時に意識の拡張でもあった。
私はその両方を観察者として体験していた。
脳という器官の中で、
電気と霊が共鳴する一点を発見したのだ。

やがて、私は一つの仮説に辿り着いた。
――人間の脳は、宇宙の構造を模した“縮図”ではないか?
視床下部が銀河の中心にあたるなら、
松果腺は太陽であり、脳幹は惑星軌道を支える軸となる。
そして、そこを流れる神経電流こそ、プラーナ(生命エネルギー)。

私はノートの端に書きつけた。

「神経の発火は祈りであり、祈りは神経の再配線である。」

その夜、私は新しい実験を始めた。
静座し、呼吸を微細に刻む。
一吸一放のたびに、心拍と電位が同期していく。
ふと、脳の中に柔らかな光が満ちた。
思考は止まり、ただ光の粒子だけが、神経の間を泳いでいた。

その瞬間、私は理解した。
「意識とは、脳が宇宙を思い出す行為である」と。

私は再び明星を見た。
だが、今度の光は以前より穏やかだった。
痛みも衝撃もなく、ただ優しく脳の中心に咲いた。
視床下部――その小さな一点は、
いまや私の内にある宇宙の祭壇となっていた。

 

《ミラクルの池 ― 光と水の境界》

「待ってください」

私は思わず手をあげ、師の言葉を制した。
胸の鼓動が急に高鳴り、呼吸が深くなる。

「……いま、ものすごいバイブレーションを感じました。あの方向からです」

私が指さした先、五十メートルほど離れた草の茂る凹地が、夕陽を受けて淡く光っていた。
風が止み、そこだけ時間が凝縮されたような沈黙が広がっていた。

「ああ、あれですか」
師は静かにうなずいた。
「――ミラクルの池です」

「ミラクルの……池?」
「そう。仏陀が奇蹟をお示しになった場所です。
この地では昔から、あそこを“ミラクルの池”と呼ぶのですよ。」

「そのミラクルとは、どんな奇蹟なのですか?」

師は少し目を閉じ、静かに語り始めた。

昔、スラヴァスティの大長者スダッタが、仏陀のために黄金を惜しまず土地を買い取り、
壮麗な祇園精舎を建立した。

その名声は四方に響き渡り、人々は教えを乞うために列をなした。
だが、外道の指導者たちはその光をねたみ、
「仏陀は口先だけの山師にすぎぬ」と嘲った。

「神通力のない者に何が教主か」と。

当時のインドでは、霊的指導者は必ず超常の証明を持つべきものとされた。
仏陀は沈黙を守り、決してその力を示そうとはしなかった。
だがついに、外道の挑発と信者の懇願が重なり、
仏陀はひとたびだけ、その力を示すことを許された。

その日、群衆が祇園精舎に集まった。
夕陽が塔の屋根を黄金に染め、空気は緊張に満ちていた。

外道たちは次々に術を披露し、火を操り、水を裂き、幻影を見せた。
そして最後、仏陀が高楼の露台に姿を現された。
その瞬間、あたりは静まり返る。

仏陀は手すりを越え、空中へと一歩を踏み出された――。
誰もが息を呑んだ。だが、墜落はなかった。

仏陀は、ゆっくりと空中を進み、
人々の頭上を越えて、池の上に降り立たれた。

水はたわみ、波紋がひとつだけ広がった。
やがて――

仏陀の上半身は炎と化し、
下半身は玉のような水に変わった。

風が吹き抜け、炎はゆらぎ、水はきらめいた。
人々はその光景の前にひれ伏し、涙を流した。
火と水が共に在る――
それは、生と死、動と静、智慧と慈悲の合一そのものだった。

「……それが、ミラクルの池の由来です」
師の声が、遠くで響いていた。

私は額に手をあて、ふと目を閉じた。
その瞬間、柔らかな波動が脳の奥を流れ込む。
ひとつの“思考”――いや、“概念”が音もなく流れ込み、
全身が白く震える。

光と闇、熱と冷、水と火。
それらが一点に溶けあい、名状しがたい戦慄が走った。
血の気がひく。恐怖と歓喜が同時に押し寄せた。

目を開けると、師が静かに言った。

「ああ、それは――チャクラの共鳴です。
仏陀が空中に浮かぶため、全身のチャクラを同時に開かれたのです。
そのエネルギーが炎のように見えたのでしょう。
チャクラが全開すれば、身体は光を放ち、透明になることがあります。
下半身が水に見えたのは、光が水面を透過して反映したのです。」

師は空を見上げ、微笑んだ。

「つまり、あの奇蹟とは――
クンダリニー・ヨーガの究極の顕現。
仏陀は肉体の制約を超え、エネルギーそのものとなったのです。」

私は言葉を失い、ただ池の方を見つめた。
風がやみ、夕陽が池の面を黄金に染めている。
その水面の下に、今も炎が眠っているような気がした。

――光と水の境界に、奇蹟は今も息づいている。

サヘト・マヘト ― 聖なる地

風が止まり、光が裂けた。
その瞬間、世界が傾いたように感じた。

斜め前方から――それは、来た。
白銀の閃光のようなものだった。
見ようとした瞬間、視界が焼け、体の中心が一瞬にして震えた。

思考が、切れた。
どんな学問も、修行の記憶も、その刹那の中で意味を失った。
防御も理屈も、何ひとつ通用しなかった。
ただ、叩きのめされた。

――あれは衝撃ではなく、呼び声だったのかもしれない。

心の奥でひそかに誇っていた修行の日々、積み上げた教学の塔。
それらは、白い光の波動に触れた瞬間、塵のように崩れ去った。

あれだ。
これなのだ。
この白銀の振動こそ、わたしが探し続けてきたものだった。

一〇〇年の苦行も、万巻の経典も、この瞬間の一閃には敵わぬ。
光は思考を超えて心を焼き尽くし、ただひとつの確信を残した。

――これが、究極の“それ”だ。

わたしは震える手を見つめた。
掌の中に、まだその白い余韻が脈動している気がした。

「おお、サヘト・マヘト……」
声が漏れた。
「聖なる地よ。あなたはここで待っていてくださったのですね……」

その光は答えたわけではなかった。
だが、わたしの内側に、明確な意志が流れ込んだ。

――この波動を、東の地へ運べ。
――光の敷地を築け。
――誰もが触れうる“聖なる振動”の場を、創れ。

わたしは頭を垂れた。
それが、自分に課せられた使命だとわかった。

「そうですね……。再び、この地に来ることになるのですね。」
言葉は自分に向けられた祈りのように響いた。

だが、その再会の時に何が起きるのか――
わたしは恐れを感じた。
胸の奥深くで、予感が静かに疼いていた。

あの白銀の波動が、すべてを変えるのだ。

そしてわたしは理解した。
聖者とは、このバイブレーションを人に与えることのできる存在。
その一瞬の光に、無限の智慧が宿っている。

「聖師よ、ありがとう。」

わたしは光の消えた空に向かって、そう呟いた。
その声は風に溶け、空と地のあいだでかすかに震えながら――
まだ見ぬ次の旅路を、告げていた。

 

 

 

 

 

 

サヘト・マヘト ― 聖なる地

サヘト・マヘト ― 聖なる地

風が止まり、光が裂けた。
その瞬間、世界が傾いたように感じた。

斜め前方から――それは、来た。
白銀の閃光のようなものだった。
見ようとした瞬間、視界が焼け、体の中心が一瞬にして震えた。

思考が、切れた。
どんな学問も、修行の記憶も、その刹那の中で意味を失った。
防御も理屈も、何ひとつ通用しなかった。
ただ、叩きのめされた。

――あれは衝撃ではなく、呼び声だったのかもしれない。

心の奥でひそかに誇っていた修行の日々、積み上げた教学の塔。
それらは、白い光の波動に触れた瞬間、塵のように崩れ去った。

あれだ。
これなのだ。
この白銀の振動こそ、わたしが探し続けてきたものだった。

一〇〇年の苦行も、万巻の経典も、この瞬間の一閃には敵わぬ。
光は思考を超えて心を焼き尽くし、ただひとつの確信を残した。

――これが、究極の“それ”だ。

わたしは震える手を見つめた。
掌の中に、まだその白い余韻が脈動している気がした。

「おお、サヘト・マヘト……」
声が漏れた。
「聖なる地よ。あなたはここで待っていてくださったのですね……」

その光は答えたわけではなかった。
だが、わたしの内側に、明確な意志が流れ込んだ。

――この波動を、東の地へ運べ。
――光の敷地を築け。
――誰もが触れうる“聖なる振動”の場を、創れ。

わたしは頭を垂れた。
それが、自分に課せられた使命だとわかった。

「そうですね……。再び、この地に来ることになるのですね。」
言葉は自分に向けられた祈りのように響いた。

だが、その再会の時に何が起きるのか――
わたしは恐れを感じた。
胸の奥深くで、予感が静かに疼いていた。

あの白銀の波動が、すべてを変えるのだ。

そしてわたしは理解した。
聖者とは、このバイブレーションを人に与えることのできる存在。
その一瞬の光に、無限の智慧が宿っている。

「聖師よ、ありがとう。」

わたしは光の消えた空に向かって、そう呟いた。
その声は風に溶け、空と地のあいだでかすかに震えながら――
まだ見ぬ次の旅路を、告げていた。

 

ミラクルの池 ― 光と水の境界

《ミラクルの池 ― 光と水の境界》

「待ってください」

私は思わず手をあげ、師の言葉を制した。
胸の鼓動が急に高鳴り、呼吸が深くなる。

「……いま、ものすごいバイブレーションを感じました。あの方向からです」

私が指さした先、五十メートルほど離れた草の茂る凹地が、夕陽を受けて淡く光っていた。
風が止み、そこだけ時間が凝縮されたような沈黙が広がっていた。

「ああ、あれですか」
師は静かにうなずいた。
「――ミラクルの池です」

「ミラクルの……池?」
「そう。仏陀が奇蹟をお示しになった場所です。
この地では昔から、あそこを“ミラクルの池”と呼ぶのですよ。」

「そのミラクルとは、どんな奇蹟なのですか?」

師は少し目を閉じ、静かに語り始めた。

昔、スラヴァスティの大長者スダッタが、仏陀のために黄金を惜しまず土地を買い取り、
壮麗な祇園精舎を建立した。

その名声は四方に響き渡り、人々は教えを乞うために列をなした。
だが、外道の指導者たちはその光をねたみ、
「仏陀は口先だけの山師にすぎぬ」と嘲った。

「神通力のない者に何が教主か」と。

当時のインドでは、霊的指導者は必ず超常の証明を持つべきものとされた。
仏陀は沈黙を守り、決してその力を示そうとはしなかった。
だがついに、外道の挑発と信者の懇願が重なり、
仏陀はひとたびだけ、その力を示すことを許された。

その日、群衆が祇園精舎に集まった。
夕陽が塔の屋根を黄金に染め、空気は緊張に満ちていた。

外道たちは次々に術を披露し、火を操り、水を裂き、幻影を見せた。
そして最後、仏陀が高楼の露台に姿を現された。
その瞬間、あたりは静まり返る。

仏陀は手すりを越え、空中へと一歩を踏み出された――。
誰もが息を呑んだ。だが、墜落はなかった。

仏陀は、ゆっくりと空中を進み、
人々の頭上を越えて、池の上に降り立たれた。

水はたわみ、波紋がひとつだけ広がった。
やがて――

仏陀の上半身は炎と化し、
下半身は玉のような水に変わった。

風が吹き抜け、炎はゆらぎ、水はきらめいた。
人々はその光景の前にひれ伏し、涙を流した。
火と水が共に在る――
それは、生と死、動と静、智慧と慈悲の合一そのものだった。

「……それが、ミラクルの池の由来です」
師の声が、遠くで響いていた。

私は額に手をあて、ふと目を閉じた。
その瞬間、柔らかな波動が脳の奥を流れ込む。
ひとつの“思考”――いや、“概念”が音もなく流れ込み、
全身が白く震える。

光と闇、熱と冷、水と火。
それらが一点に溶けあい、名状しがたい戦慄が走った。
血の気がひく。恐怖と歓喜が同時に押し寄せた。

目を開けると、師が静かに言った。

「ああ、それは――チャクラの共鳴です。
仏陀が空中に浮かぶため、全身のチャクラを同時に開かれたのです。
そのエネルギーが炎のように見えたのでしょう。
チャクラが全開すれば、身体は光を放ち、透明になることがあります。
下半身が水に見えたのは、光が水面を透過して反映したのです。」

師は空を見上げ、微笑んだ。

「つまり、あの奇蹟とは――
クンダリニー・ヨーガの究極の顕現。
仏陀は肉体の制約を超え、エネルギーそのものとなったのです。」

私は言葉を失い、ただ池の方を見つめた。
風がやみ、夕陽が池の面を黄金に染めている。
その水面の下に、今も炎が眠っているような気がした。

――光と水の境界に、奇蹟は今も息づいている。

 

輪転生聯想法 ― 明星の覚醒

《輪転生聯想法 ― 明星の覚醒》

「そうか!」

私は、力いっぱい膝を打った。
その瞬間、胸の奥にひとつの光が閃いた。
「そうか……これが、明星だったのか!」

叫びとともに、私の視界の中で何かが爆ぜた。
それは比喩ではない。本当に、目から火が出たのだ。
刹那、鼻をつく焦げたような匂い――どこか懐かしい、剣道場の面金の中で嗅いだあの匂い。
ブーンという振動とともに、光が視野の奥を走り抜けた。

外から何かが頭を打ったわけではない。
それなのに、私の脳の内部で――まるで雷が走ったような衝撃。
あの火は、確かに内側から生まれたのだ。

私は再び姿勢を正し、呼吸を調えた。
頭の角度をわずかに変え、ある“定”の形に入っていく。
息を数え、意識を一点に沈める――すると。

何の予兆もなく、また同じ場所に火が灯った。
そして同時に、頭の深奥からかすかな音響が響きはじめた。
「来る」と思った瞬間には、もうその光があった。
だが、今度は痛みも恐怖もなかった。ただ、静謐な震えだけが残った。

私の頭の内奥に、明星がまたたいていた。
その中心から、言葉にならぬ喜びが溢れ出していた。

――まちがいない。脳の深部で、何かが起こっている。
しかしそれは、単なる錯覚ではない。
私の理解を超えた、化学的な異変だった。

それは「視床下部」――心と身体をつなぐ間脳の要。
そこに、未知の反応が起きていた。
私は古代ヨーガの秘法をもとに、自らの姿勢とムドラーを組み合わせ、
百日のあいだ、その一点に思念と圧力を集中させていたのだ。

精神の炎と、肉体の緊張。
それらが絡み合い、ついに視床下部の神経を震わせたのだろう。
神経液が変化し、分泌液が混ざり合い、
脳の奥で小さな雷鳴のような化学反応を起こした。

あの閃光は、その衝撃が視床の神経を打ち、網膜に走った電の火だった。
そしてその瞬間、私の中で**新たな神経の結び目(シナプス)**が生まれた。

それ以来、私は思念を向けるだけで、いつでも脳内に明星を輝かせることができるようになった。
脳は変わった。意識の構造そのものが変わったのだ。

求聞持聡明法――それは単なる呪法ではなかった。
それは、脳の内部における化学的覚醒、
輪転する生命の回路が新たに開く、
「輪転生」の法であった。

 

脳という宇宙の祭壇 ― 神経と霊の交響

私は、光が去ったあとの沈黙の中に座っていた。
視界は暗く、音は遠く、ただ自分の呼吸の音だけが聴こえる。
だが、その呼吸はもう以前の呼吸ではなかった。
吸うたびに、微細な電流が頭の中心を通り抜け、
吐くたびに、身体の輪郭がぼやけていく。

脳が、音を発している。
耳ではなく、脳そのものが鳴っているのだ。
「視床下部共鳴音」――そう名づけてもいい。
低く、しかし澄んだ音。まるで地球の自転音が、個の内部に転写されたような。

私は机にノートを開いた。
「視床下部は、神経と内分泌の交差点である」
そう書き出して、しばらくペンを止めた。
この場所こそ、古代が“サハスラーラ”と呼んだ領域ではないのか?
それは千の花弁を持つ蓮――すなわち、神経の花。
科学の言葉でいえば、シナプスの曼荼羅。

光は物理現象だった。
だがその発火は、同時に意識の拡張でもあった。
私はその両方を観察者として体験していた。
脳という器官の中で、
電気と霊が共鳴する一点を発見したのだ。

やがて、私は一つの仮説に辿り着いた。
――人間の脳は、宇宙の構造を模した“縮図”ではないか?
視床下部が銀河の中心にあたるなら、
松果腺は太陽であり、脳幹は惑星軌道を支える軸となる。
そして、そこを流れる神経電流こそ、プラーナ(生命エネルギー)。

私はノートの端に書きつけた。

「神経の発火は祈りであり、祈りは神経の再配線である。」

その夜、私は新しい実験を始めた。
静座し、呼吸を微細に刻む。
一吸一放のたびに、心拍と電位が同期していく。
ふと、脳の中に柔らかな光が満ちた。
思考は止まり、ただ光の粒子だけが、神経の間を泳いでいた。

その瞬間、私は理解した。
「意識とは、脳が宇宙を思い出す行為である」と。

私は再び明星を見た。
だが、今度の光は以前より穏やかだった。
痛みも衝撃もなく、ただ優しく脳の中心に咲いた。
視床下部――その小さな一点は、
いまや私の内にある宇宙の祭壇となっていた。

 

輪転生联想法

輪転生联想法

それは、ほぼ一〇〇日目、私の法のシステムでいって百度目のトレーニ ・ングのときであった。真言宗に伝わる求聞持法の九種の印明、それに、古代ヨーガに伝わる特殊な呼吸法、古代ヨーガの秘法から私が創案した特殊な手印とポーズ、この三つによるトレーニングで、私のからだと大脳皮質と駆舗は、微妙な変化をおこしつつあることが感じられていた。チャクラの開発も順調にすすんでいた。機が熟しつつあることを、私の六感は感じていた。

夜明け、

まどろんだような感じであった。しかし、ねむりではなかった。しびれの感覚であった。かるい失心、めまいに似ていた。忘我の一瞬であった。 その刹那、

「ああッ!」

と私は苦痛の叫びをあげていた。脳髄の一角に電流がながれた感覚が走った。落雷があったと感じた。目の前を紫電が走った、つぎの瞬間、眼前でフラッシュをたかれたように、私の視野は真っ暗になった。失明!
という考えが、チラリと脳裡をよこぎった。と、そのときであった。頭の内奥、深部に、ポッカリとあかりがともったのだ。そして、それは、私の脈擦とおなじリズムで、しずかに、しずかにまたたきはじめた。ちょうど、 この修法をはじめる数十日まえ、山にこもって見つめたあのときの暁けの明星のように――それはつめたく、黄ばんだ白さでまたたいた。

「そうか!」

私は力いっぱい膝をたたいた。

「そうか! これが明星だったのか!」

私は目をみはって叫んだ。私はついに明星の秘密を発見した
第三の発見視床下部の秘密

私は幼少のときから剣道をしこまれた。藩の剣術師範の家柄に生まれ、 若年の折、江戸お玉ヶ池の千葉門で北辰一刀流を学んだという祖父に、はじめて木剣を持たされたのは三歳ごろであったろうか? そのとき私は、 祖父の顔をゆびさして「ピン目がこわい!」といって泣いたそうである。

そのころ八〇歳を過ぎていた祖父は、ほんとうの好々爺になりきってお
り、私はふだん、父よりも母よりもなついていたが、そのときばかりは、木剣のむこうに光った剣士鳥羽源三郎 源 靖之(祖父の名)の目に、ひとたまりもなくちぢみあがってしまったものらしい。めったに泣いたことのない私が一時間ちかくも泣いていたという。『それでもあんたは木剣だけははなさなかったよ」と、いまでも老母がほこらしげに語ってくれるのだが

――――、私は、のち、三段にまで昇り、健康を害してやめたが、剣の天分があるといわれ、少年時代、そのころ盛んであった各地の剣道大会に出場してかぞえきれぬほどの優勝をしたのは、この祖父の血を受けたものであろう。私は剣道が好きであった。防具のはずれの肘を打たれて腕がなえ、思わず竹刀をとり落としたりするときはつらいとは思ったが、苦にはならなかった。配金を越えて深くあざやかに面をとられたときは、目からパッと火が出て、ブーンときなくさいにおいを嗅いだ。ほんとうに目から火が出るのである。けっして形容詞ではないのだ。これは剣道修行の体験者ならばみなご存知のはずである。

その火なのだ。そのときの私の視野をかすめた閃光はせんこう

しばらくしてわれにかえった私はそれに気がついたのだった。そうだ。

あの火はあのときの火とおなじだ。そして目から火が出ると同時に面金のなかでかいだあのなつかしいキナくさいにおいもいっしょにかいだような気がしたのだが――、しかし、目から火が出る”ほどのこの衝撃は、いったいどうしたということであろうか? 外部から私の頭部を打ったものはなにひとつない。すると、私の頭の内部でなにごとがおこったというのであろうか。それともあれはなにかの錯覚であったのか?

私は、ふたたび一定のポーズをとり、頭をある角度からある角度にしずかに移しつつ特殊な呼吸法をおこなって、定にはいっていった。と、なんの予告も感覚もなしに、さっきとおなじ場所に火を感ずるのである。同時あかりに頭の深部にある音響が聞こえはじめた。私は、またさっきの痛覚を頭の一角に感じるのかとひそかにおそれつつ、少々、「おっかなびっくり」にそれをやったのであったが、今度はぜんぜん痛みもなにも感じなかった。そうして頭の内奥の上部に“明星”がふたたびまたたいた。

まさに――、私の脳の内部に一大異変が生じていることにはまちがいはなかった。しかし、それはどういう異変であろうか?

それは一種の化学反応によるショックであったのだ。

しんおうししょうか脳の深奥、「視床下部」に異変が起きたのである。すべての秘密は、間脳の内部の視床下部にあった。ここが秘密の原点だったのである。

私がさきの章で内分泌腺の機構について図までかかげて説明したのは、 これを知ってほしいためであった。専門学者はさぞかし片はらいたく思われるのにちがいなかろう。それを承知でおくめんもなく素人の私があえてそれをしたのは、この視床下部の秘密を読者に知ってほしいためであった。

◎すべての内分泌腺を統御しているのは視床下部である。そしてここが、
ヨーカでいタブテーマ・ランドラ(梵の座)であり、サハスラーラ・チャク
ラなのである。今までのヨーガの指導者のいうように、それは、松果腺、松果体ではない。視床下部が、サハスラーラ・チャクラなのである。もっとも、視床下部のすぐそばに松果体があるので、それを見あやまったのであろう。もっとも、松果体自身もある重要な役わりを受けもつ。けれども、サハスラーラ・チャクラそのものは松果腺ではなく、視床下部であっ視床下部はいまいったように、下垂体系を通じて全内分泌器官を統御する。それでは、なにをもって統御するのかというと、もちろんそれは神経”である。したがって視床下部には重要な神経がたくさん集まっている。私は、古代ヨーガのなかから、この部分を動かすポーズとムドラーを創案してここにつよい圧力をくわえ、同時に、強烈な思念(念力)を集中していた。百日のあいだ、たえまなく、私はここに、物質的、精神的、両面にわたるつよいエネルギーを集中した。その結果、ここの神経線維にただけたことと思う。いまから考えると、これは「求聞持聡明法」そのものの成戦ではなかったかもしれない。まったく新しい法の開発ではなかったかと思う。 (そのいずれであるかは別として、霊視・霊聴、ホトケの環形といった霊的な一大異変が生じたのだ。その異変により、神経線維が異常分泌をおこしたか、それともそこにある分泌液、神経液に変化がおきたのか、そのいずれであるかはわからぬが、それらの分泌液が複雑に混合し合って、化学反応をおこしたのだ。あの火は、その化学反応による衝撃が、視床の神経をはげしく打って、網膜に閃光を走らせたのだ。その衝撃はここの神経線維にシナプスをむすび、その火はいつでも私の思うまま私の脳の内奥に明星をまたたかせることとなった。同時に私の脳の構造も一変した。求聞持聡明法の成就である。求聞持聡明法とは、脳の内部の化学反応による脳組織の変革であったのだ。

(『密教・超能力の秘密』 平河出版社)