光明真言の響き
静寂な堂内に、僧侶の低く深い声が響く。香木の薫りが漂うなか、数珠を操る手が規則正しく動く。
「オーン アボキャ ベイロシャノウ……」
堂内の灯明がゆらめき、まるで仏の光が彼らの祈りに応えるように思えた。
五色の光がひそかに揺れ、瞑目した僧の意識の内に浸透してゆく。そこには無限の光明が広がり、大日如来の威光が五色の糸のように天へと伸びていくのが感じられた。
「マカボダラ マニ ハンドマ……」
宝珠の輝き、蓮華の清らかさ、それらが心の奥深くで共鳴する。五仏の力が渦巻き、僧はその光の中に身を委ねる。
彼の脳裏に、五智如来が顕現する。
金剛界の阿閦如来は青い光を放ち、虚空に響く智慧の鐘の音のように心の迷いを払う。宝生如来の黄金の輝きは慈悲に満ち、迷える衆生を温かく包み込む。阿弥陀如来の紅蓮の光は燃え盛る炎のごとく、生死の苦を焼き尽くす。不空成就如来の緑の光は、風のように速やかに悟りへと導く。そして、大日如来の純白の光は、全てを超越し、宇宙の理そのものを体現する。
五色の光はひとつに溶け合い、僧の全身を包み込んだ。
「ジンバラ ハラバリタヤ フーン……!」
最後の一音が堂内に響き渡ると、その場の空気が静まり返った。まるで全ての存在が、この言葉の意味を噛みしめるかのように。
僧がゆっくりと目を開けると、そこには確かなものがあった。
――光がある。
迷いなき智慧の光が、彼の内にも、世界にも、確かに存在しているのだと。
(了)




