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『光の方へ ― 阿弥陀如来の真言に導かれて』

 

 

第一章 極楽より来る声

夜の闇が静かに降りてきた。
沙月(さつき)は、母の遺影にそっと手を合わせた。蝋燭の火がかすかに揺れ、その奥に見えない何かの気配が宿っている気がした。

「……オン・アミリタ・テイ・ゼイ・カラ・ウン」

彼女は、聞き覚えのないその言葉をふと口ずさんでいた。

遠い昔、母が教えてくれた記憶がかすかに蘇る。
「この真言には、すべてを包み込む光があるのよ」と。
阿弥陀如来の名を呼べば、どこにいても必ずその声を聞いてくれると。

第二章 無量の光

その夜、沙月は夢を見た。
西の空が深い紅蓮に染まり、果てのない光が降り注いでいた。金色の雲が流れ、その上を緩やかに、三つの尊き存在が進んでくる。

中央には、静かに微笑む如来がいた。
両脇には、聖観音と勢至菩薩――まさに阿弥陀三尊であった。

「あなたの祈りは届いています」
阿弥陀の声は言葉にならず、それでいて心の深いところに真っ直ぐ届く。

「私は無量の光、尽きることのない命。
南無阿弥陀仏――そのひと声が、あなたを光の岸へと導くのです」

沙月は、その場にひざまずき、心のすべてを解き放った。
「母に…もう一度…会いたい」

阿弥陀は静かに手を差し伸べた。
その印は来迎印。
ねじれた二本の指が、彼女を迎えに来た証であった。

第三章 他力の道

目覚めた朝、沙月の胸の奥に残っていたのは、夢の輪郭よりも確かな温もりだった。
仏壇の前に坐り、手を合わせた。

「南無阿弥陀仏…」

そのとき、彼女は理解した。
人は自力だけでは救えない。
でも、「念仏」という道を通して、他力の光に包まれるのだと。

阿弥陀如来は、四十八の誓願を立てられた。
その中には「どんな者でも、名を呼びさえすれば、必ず極楽へ導く」と誓われた願いがある。

だからこそ、この信仰は「他力本願」と呼ばれる。
それは決して弱さの表れではなく、信じる強さである。

第四章 無限の命と再会の岸

日が傾く頃、沙月はふと立ち上がった。
近くの寺に足を運ぶと、住職が静かに読経していた。
本尊の前には、阿弥陀如来の坐像が祀られている。

装飾は一切なく、ただ深い静けさのなかに座している。
しかし、その目はすべてを見通し、その手はすべてを抱く。

「この仏は、無量寿仏とも呼ばれます」
住職の声がした。
「限りない命を持って、私たちを見守ってくださるのです」

沙月はもう一度、真言を唱えた。

「オン・アミリタ・テイ・ゼイ・カラ・ウン」

やがて、彼女の涙は静かに流れ、それは悲しみではなく、救われた者が流す安らぎの涙だった。

終章 光の中へ

ある日、沙月は夢で見たその光景を絵に描いた。
西の空に浮かぶ金の雲、慈悲に満ちた阿弥陀三尊、そして空を舞う二十五菩薩の姿。

それを見た子どもたちが言った。

「ここ、天国なの?」

沙月は微笑んだ。
「ううん、極楽浄土。悲しみも、怒りも、もうないところ――みんながやさしくなれる場所よ」

祈りは、今もこの世界に静かに流れている。
南無阿弥陀仏のひと声とともに。
それは、いつか誰もが辿り着く光の岸――

極楽浄土への道である。

 

『光の方へ ― 第二部:都市に響く念仏』

第一章 コンビニの祈り

東京・新宿。ネオンがちらつく雑踏のなか、片桐遼(かたぎり・りょう)はコンビニのレジ打ちをしていた。
深夜シフト。疲れた目、無言の客。SNSでは誰もが誰かを羨み、叩き、叫んでいる。

「死にたいって言葉、もう百回は見たな…」

スマホの画面を伏せ、遼はふとつぶやいた。
でも、言葉の裏にある“助けて”を誰が受け止めるのだろうか。

休憩室の隅、祖母の形見の数珠を手に取った。
彼女がよく唱えていた言葉が、遼の胸にかすかに浮かぶ。

「なんまんだぶつ、なんまんだぶつ……」

声に出したそのとき、不思議なほど、胸のつかえがふっとゆるんだ。

第二章 誰かが聞いている

翌朝、ネットの掲示板にひとつの書き込みが話題になった。

「深夜コンビニで『南無阿弥陀仏』ってつぶやいたら、不思議と心が落ち着いた。これって何の言葉?」

それに多くのリプライがつく。

「うちのばあちゃんも言ってた」

「浄土宗とか、浄土真宗のやつだろ?」

「念仏ってマジで効くの?」

「南無=帰依、阿弥陀仏=仏に…って意味らしいよ」

やがて、ある僧侶のアカウントが返信をつけた。

「念仏は、阿弥陀如来に“まかせる”という祈りです。あなたの苦しみを、抱えてくれる存在がいることを思い出す行いです。」

「まかせる…?」
遼はその言葉にひっかかった。
それは、「頑張れ」という言葉より、ずっと深い温かさを感じさせた。

第三章 デジタル念仏道場

数週間後、「念仏スペース」という試みがSNS上で話題になる。
スペース(音声配信)で、全国の僧侶がリレーで念仏を唱え続けるのだ。

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏――」
その声をイヤホン越しに聴くと、不思議な安心感があった。

不眠に悩む会社員、SNS疲れの学生、病床の人たち…
誰にも会いたくない夜でも、誰かが祈ってくれていると感じられる場所。

遼も時々、無言でそこに入り、目を閉じるようになった。

「仏って…スマホ越しでも届くのかな」
彼は笑った。けれどその心は、確かに何かに触れていた。

第四章 都市に咲く浄土

ある日、コンビニにひとりの老婆が訪れる。
手にした小さなチラシにはこう書かれていた。

「誰でも入れる念仏会 都会の片隅で、光に出会いませんか?」

それは、小さな寺の集まりだった。
遼はなぜか惹かれ、休日に足を運んだ。

お経も法話も初めてで、最初は戸惑った。
けれど、皆がひとつの声で「南無阿弥陀仏」と唱えると、都市の喧騒が遠のいていく気がした。

そのとき彼は、気づいた。

極楽浄土とは、ただ死後に行く理想郷ではなく、
この現実の中に、光を見出す心のあり方なのだと。

終章 他力の光、ここに在り

日常は何も変わらない。
レジには無言の客、画面には絶えない苦しみの声。

けれど、遼の胸には、ひとつの灯がある。

「南無阿弥陀仏」

この言葉は、誰かを裁くでも、励ますでもない。
ただ、共に歩む光の声だ。

遼は今日も、数珠をポケットにしのばせ、つぶやく。

「なんまんだぶ…」

この都市の片隅にも、阿弥陀如来の光は届いている。
そして、救いは今ここに、ひとりひとりの心のなかに、静かに生まれているのだった。

 

 

 

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