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日輪の中心にて――大日如来への旅』

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第一章 光を求めて、山へ

風が凪(な)ぎ、杉の枝がわずかに揺れていた。
苔むした山道を、一人の青年が登ってゆく。名を**蓮明(れんみょう)**という。まだ二十五の春を迎えたばかり、寺に入って七年目の修行僧だ。

「大日如来……宇宙の中心……か」

その名を初めて耳にしたのは、学寮での講義だった。
密教とは何か、曼荼羅とは何を描いているのか。どの教義にも必ず現れるその名、「大日如来」。だが、どの教本も「すべての仏の根源」「宇宙そのもの」としか書かれていない。

“仏が仏の根源とは、いったいどういうことなのか?”

以来、蓮明の胸にその問いが根を張った。
「言葉では語れない真理」があるならば、自らその“奥”に触れてみたい。そう思った。

導かれるように彼がやってきたのは、深山にひっそりと在る密教寺院、光輪寺(こうりんじ)。人里離れた場所にありながら、代々高僧が隠遁し、厳密な法を護ってきたと伝えられる聖地だった。

山門をくぐると、古びた木造の堂宇が並んでいた。
そして、その奥にひとつだけ、他とは異なる気配を放つ建物があった。

「お前が、蓮明か」

奥から現れたのは、灰色の法衣に身を包んだ老人だった。
背は低いが、眼差しは深い井戸のように澄んでいる。

「はい。大日如来の教えを学びたく、参りました」

「教え……ふむ。ならば、見よ」

老人は、堂の奥へと蓮明を導いた。
足を踏み入れた瞬間、蓮明の息が止まる。

──曼荼羅。

堂内には、巨大な曼荼羅が掲げられていた。色彩は経年で褪せていたが、その気迫は生きていた。中央に坐す金色の仏。宝冠を戴き、装飾を纏い、手には印を結ぶ。

「これが……大日如来……」

「そうだ。これは金剛界の曼荼羅。智慧の世界の中心に、大日が坐しておられる」

老人の声は静かだったが、耳ではなく心に響いた。

「見た目はただの絵。だが、真実に触れた者には、この中に宇宙があるとわかる」

蓮明は息を呑んだ。

「今日から七日、曼荼羅の前に坐り、ただ祈れ。唱えるがよい、オン・バサラ・ダト・バンと」

「それだけで……?」

「それで足りぬと思うか?」

老僧は微笑んだ。
「お前の問いが本物ならば、やがてあの仏が答えてくださる」

そして、そのまま堂を出て行った。

蓮明は曼荼羅の前に坐した。
静かに目を閉じ、手を組む。

──オン・バサラ・ダト・バン
──オン・バサラ・ダト・バン……

風が止み、音が消え、世界が曼荼羅の中に沈んでゆく。
まだ答えは遠い。
だが、彼はすでに光の入口に立っていた。

 

第二章 胎蔵の祈り、金剛の問い

「あなたは、なにを探しているのですか?」

三日目の朝。
蓮明が静かに真言を唱えていた時、背後から聞こえたのは、柔らかい声だった。

振り返ると、白い衣を纏った一人の少女が立っていた。十六、七歳ほどか。だが、年齢では測れない透明さを、その瞳は湛えていた。

「……修行者か?」

「ええ。ここの者ではありませんけれど、時々来るんです。あなた、ずっと座ってますね。曼荼羅に、なにを見ているんですか?」

問われ、蓮明は言葉を失った。
自分は、何を見ている? 何を探している?
曼荼羅の中心に坐す大日如来の像は、ただ静かにこちらを見つめ返すだけだった。

「……“真理”だと思っていた。だけど、わからない。智慧なのか、慈悲なのか……」

少女は微笑んだ。

「それなら、もうひとつの曼荼羅を見てみますか?」

彼女に導かれるまま、蓮明は寺の奥、苔に包まれた小堂に辿り着いた。
中に掛けられていたのは、胎蔵界曼荼羅。
金剛界よりも柔らかく、無数の仏と菩薩たちが、まるで母のようなまなざしで、中央を囲んでいた。

そこに坐す大日如来は、印も姿も異なっていた。
両手の全ての指を、腹の前で穏やかに組み合わせ、法界定印を結ぶ。
慈しみと受容の気配が、空間を満たしていた。

「これが、胎蔵界の大日如来……」

「命を抱く仏さま。すべての生き物を、内から包む存在です」

少女の言葉に、蓮明は息をのんだ。
金剛界の仏が「智慧の光」なら、こちらは「命を育む大地」だ。

「じゃあ、大日如来とは、相反するものの統合なのか……?」

「反対ではありませんよ。父と母が一つであるように、智慧と慈悲は、もともとひとつなんです」

その言葉は、どこか大きな響きを伴って、蓮明の胸に沈んだ。

「あなたの問いは、たぶん正しい。でも、それは“知る”ものじゃなく、“坐して受けとる”ものなんです」

彼女は、小さな鈴を取り出した。

「今夜、密壇で**火の修法(ごまほう)**が行われます。大日如来の智慧と慈悲、その両方に火を捧げる法です」

「密壇……?」

「炎の中で、あなたの問いも燃やしてごらんなさい」

彼女はそう言い残して、風のように去っていった。

その夜。
蓮明は再び大堂に戻り、智拳印を結びながら、火前に坐した。
炉の中に薪がくべられ、師僧が真言を唱えるたび、火は激しく揺れた。

オン・バサラ・ダト・バン
オン・アビラウンケン

両界の真言が重なり合い、炎が曼荼羅の中の大日と、現実の火とを繋ぎ始めた。

そのとき、蓮明の意識がぐらりと傾いた。
火の奥から、ひとつの光が生まれ、やがて声が響いた。

──「汝の問いに、我は答えよう。だがその前に、汝の“我”を捨てよ」

それは、大日如来の声だったのか、火の中の仏の叫びだったのか。
彼には、もう分からなかった。

ただ、蓮明は感じていた。
智慧と慈悲がひとつに重なり、宇宙の中心へと導こうとしていることを。

 

第三章 密壇の火と夢の中の師

火は、未だに燃えていた。
真夜中、星の光も届かぬ密壇の堂内で、炎は音もなくゆらめいていた。

蓮明は炉の前で膝をつき、額に汗をにじませながら、真言を唱え続けていた。

──オン・アビラウンケン・バザラダトバン
──オン・アビラウンケン・バザラダトバン

いつの間にか、言葉は祈りではなく、光そのものの響きへと変わっていた。
意識は宙に浮き、身体の重さも、時間の流れも、失われていく。

ふと、燃えさしの火が弾けた音が、耳を打った。

そして──闇が訪れた。

夢だった。

だが、夢とも現ともつかぬ、奇妙な明晰さがあった。

彼は、見知らぬ静寂の寺の廊下を歩いていた。
月も星もないはずの夜に、天井からは柔らかな光が差している。

やがて、堂の扉の前にひとりの老僧が現れた。

「……師匠……?」

見覚えがあった。
かつて学寮にいた時、密教の入口を教えてくれた阿闍梨(あじゃり)。
数年前に遷化(せんげ)したはずの、恩師の姿だった。

「よく来たな、蓮明」

老僧は扉を開け、中へ導く。

そこには、曼荼羅ではない曼荼羅が広がっていた。
仏たちは絵ではなく、すべて生きていた。

火を背負った不動、微笑む観音、獅子に乗る文殊、憤怒の明王、そして──
中央に坐す、輝ける存在。

大日如来。

今まで見たどの像よりも、広く、深く、静かで、燃えていた。

「大日はな、仏にあらず、神にあらず、存在ですらない」

老僧は火を見つめながら、言った。

「だが、すべての存在はそこから始まり、そこへ還る。
命も、光も、問いも、お前の“我”さえもだ」

蓮明は、つぶやいた。

「でも……なぜ、語られないのです? なぜ、何も答えてくださらないのですか?」

老僧は、穏やかに目を細めた。

「語れぬものだからだ。智慧は破られぬ刃、慈悲は底なき胎。
どちらも、“知る”ことはできぬ。ただ、“坐して、その身となる”ことだ」

「……その身……」

「そう。祈りも修行も、真言も、印も。すべては、お前が大日となるための道だ」

老僧の輪郭が、徐々に火に溶けていく。

「忘れるな、蓮明。問いを持ち続けよ。
答えは、“汝が消えるとき”にだけ、訪れる」

──オン・アビラウンケン・バザラダトバン

夢の中で、その言葉が再び胸に満ちた。

蓮明が目を覚ましたとき、外はもう白んでいた。
火は消えていた。

だが、胸の奥には、まだ小さな火が灯っていた。
夢か幻か、もうどうでもよかった。

その火は、現実よりも確かだったからだ。

第四章 曼荼羅に入る者

蓮明は、曼荼羅の前に坐していた。
もう何時間が経ったのか分からない。だが、時間という概念そのものが、静かに剥がれ落ちていくのを感じていた。

夢の中で出会った恩師の言葉が、まだ胸の奥で反響している。

「問いを持ち続けよ。答えは、“汝が消えるとき”にだけ、訪れる」

曼荼羅──
それは、ただの絵ではなかった。金剛界、胎蔵界。
無数の仏が秩序の中に並び、中心に大日如来が坐している。

だが今、蓮明はその“外”から曼荼羅を見ていることに気づいた。

「入るのだよ」

突然、声がした。
あの少女──白衣の者が、背後に立っていた。

「曼荼羅の中へ?」

「そう。仏を見つめるのではなく、“仏の視点”で、この世界を見てごらんなさい」

その言葉と同時に、何かが“反転”した。

目を閉じると──
自分の身体が、曼荼羅の内部に溶け込んでいくような感覚に襲われた。

まず、音が消えた。
次に重力が消えた。
最後に「蓮明」という名までもが、風のように遠ざかっていった。

気づくと、そこは光の空間だった。
無数の仏たちが、蓮明を囲んで静かに微笑んでいた。

不動、観音、弥勒、文殊、虚空蔵……
それぞれが、彼の中にある恐れ・慈しみ・希望・問いと共鳴していた。

やがて、中央の玉座に──
大日如来が坐していた。

その御姿は、もはや「像」ではなかった。
光であり、深淵であり、そして沈黙だった。

蓮明は、問いたかった。

**「あなたは誰ですか」**と。

けれど、言葉が生まれない。
“自分”という器が、空になっていた。

そのとき、大日の口が、ゆっくりと動いた。

──「我は、汝なり」──

その声が響いた瞬間、蓮明の胸に広がったのは、言葉では言い尽くせないほどの慈しみだった。
母が子を抱くような、太陽が闇を照らすような、深い“存在の許し”。

そして──すべてが、光に包まれた。

気がつくと、蓮明は、元の堂に坐していた。

変わったものは、何もない。
火は消え、空は青く、木々は風に揺れている。

だが、彼のまなざしだけが変わっていた。

もう、答えを求める必要はなかった。
なぜなら、自分自身が曼荼羅の中に在ると、確かに知ったからだ。

 

第五章 降りてゆく光、守り仏の誓い

「下りなさい」

曼荼羅の光の中で、確かに誰かがそう告げた。

それは命令ではなかった。
慈悲と、静かな覚悟に満ちた“招き”だった。

蓮明の魂は、光の中から、ふたたび現世へと還り始める。
まるで天空から一筋の光が、大地へと“降りていく”ように──。

それは、還俗とも違った。
世を捨てていたのではない。むしろ、今ようやく“この世”を抱けるようになった。

蓮明は山を下りた。
かつて修行のために離れた村の、古びた道を一歩ずつ歩く。

民家の軒先に吊るされた洗濯物、畑を耕す老夫婦、泣きながら歩く子ども。
どれも曼荼羅の仏のように、ひとつの位置にふさわしく「在る」と思えた。

「……ここが、私の道場だったのか」

心の底から、そう思った。

村のはずれ、祠の裏手にある小さな庵に戻ると、懐かしい白衣の少女が待っていた。

「おかえりなさい、蓮明さま。いえ、もう“さま”はいらないですね」

蓮明は微笑んだ。

「君は、誰なのだ?」

少女は、そっと手を胸にあてて言った。

「私は、胎蔵界の観音のひとひら。あなたの“慈悲”が形をとった存在。
あなたが曼荼羅に入る前に、“あなた自身の祈り”としてここに現れたのです」

蓮明は、驚きも恐れもなかった。
すべてが、今は自然だった。

「そして、これからは?」

少女は、彼に一枚の護摩札を手渡した。
そこには、こう書かれていた:

「未・申年の者に、光を」
「願う者に、大日如来の名を届けよ」

「あなたは、守り仏の誓いを継ぎました。
これからは、大日の分身として、人々の願いを預かる者となるのです」

蓮明は、札を胸にしまい、空を仰いだ。

青い空に、見えぬ日輪が輝いていた。

かつて彼が修行に入った理由は「悟り」だった。
だが今、彼がこの世に戻った理由は「ともに在ること」だった。

降りてゆく光──それは、大日如来そのもの。
そして、人の心に灯る小さな祈りに宿るもの。

蓮明は、微笑んだ。
この命が尽きるまで、自分がその光をつなぐ者であると、ただ静かに誓った。

 

第六章 火の仏たち、風の祈り

朝焼けの中、蓮明はふたたび護摩壇に火を灯していた。

かつて修行の象徴だった炎は、今では祈りの入口となっていた。
火は燃える。けれどその熱は、もはや苦行のそれではない。
誰かの願いを宿し、浄め、天へ還す“橋”だった。

この日、蓮明の庵をひとりの若者が訪れた。
痩せた顔に深い疲労をたたえ、肩には亡き父の位牌を抱えていた。

「父は、ずっと戦争の記憶に苦しんでいました。
最後の言葉も、何かに怯えながら……。
せめて魂が安らぐよう、祈っていただけませんか」

蓮明は、そっとうなずいた。

位牌を壇に置き、火を焚く。
炎は、静かに立ちのぼる。

そして蓮明は、両手で印を結んだ。胎蔵の慈しみの印。

「オン・アビラウンケン・バザラダトバン……」
「オン・アビラウンケン・バザラダトバン……」

若者の目から、涙がひとすじ落ちた。
その涙は、風に運ばれるようにして、炎へと溶けていった。

「……風が、吹いていますね……」

蓮明は小さく頷いた。

「それは、祈りを運ぶ風。仏たちの言葉なき答えです」

夜、蓮明はひとりで密壇に坐していた。

火は消えていたが、堂内には風の音だけが、確かに在った。

それは、仏たちの語らぬ語り。
かつて燃えた明王たちの怒りが、慈悲に変わって吹きぬけている音。

「怒りも、悲しみも、すべては転じる。
火も、風も、仏の身体の一部なのだな……」

瞑目する蓮明の耳に、どこからか微かな声が届いた。

──「この世に祈る者がいる限り、我らは灯を絶やさぬ」

彼はそっと目を開けた。
風が、彼の衣をやさしく揺らしていた。

それは、大日如来から贈られた**「在る」という約束の風**だった。

第七章 月の水輪、影に咲く蓮

夜。
山の庵は静まりかえり、すべてが深く、淡く、やわらかく包まれていた。

蓮明は、ひとつの池のほとりに立っていた。
月がのぼり、水面にまるく光の輪を描いている。

「水輪(すいりん)か……」

池に浮かぶ一輪の蓮──
それは昼に咲くもののはずだった。だが、今ここに咲いている花は**“夜蓮”**だった。
月の光だけを受け、静かに、けれど確かに咲いている。

「まるで、影の中の慈悲だな……」

蓮明は独りごちた。
そのとき、背後から声がした。

「影に咲くものほど、強いのです」

振り返ると、そこにいたのは再び白衣の少女だった。
彼女の姿は、今や少し大人びていた。かつては“観音のひとひら”と名乗った存在──

「あなたは……」

「私は、あなたの慈悲が成熟した姿。
月のように、太陽の光を受けてなお、自らの静けさを放つ存在です」

少女の手が池の水に触れると、水輪がもうひとつ生まれた。

それはまるで、ひとつの祈りが、世界に広がる波紋のようだった。

「かつて、あなたは“光”を求めました」
「次に、光を“届ける者”となりました」
「いま、あなたは“影の中にも在る光”に目覚めようとしています」

蓮明は、ゆっくりとうなずいた。

「悲しみ、喪失、罪──
人がもっとも仏から遠いと思い込んでいる場所にこそ、
実は一輪の蓮が咲いている」

少女は微笑んだ。

「そうです。
密教は、世界の“すべて”を仏と見なす教え。
だから、あなた自身の闇も、光も、影も──
“如来の中”に含まれているのです」

池の水輪が、風に溶ける。

静かに咲く夜の蓮──
それは、かつての蓮明の姿だったのかもしれない。

そして今──
それを見つめている自分は、もう別の存在となっていた。

「……ありがとう」

蓮明は少女に向けて手を合わせた。

「私はこれからも、
光を求める人に、
影の中で泣いている人に、
この月の輪のように、
そっと寄り添える者でありたい」

少女は、ゆっくりとその姿を薄めながら、最後に一言だけ残した。

「それが、大日の“もうひとつの姿”です」

終章 すべての命に光を

春。
山の庵には、雪解けの水がせせらぎとなって流れていた。
風はやわらかく、樹々は小さく芽吹き、野の花は名もなく咲いている。

蓮明は、ひとりの子どもを背負って山道を歩いていた。
足が悪く、村では「災いの子」と呼ばれていた子だった。

その子が、ぽつりと尋ねた。

「ぼく……神さまに嫌われてるの?」

蓮明は足を止め、風の吹く方へ顔を向けた。

「いいや。
神さま、仏さまは、嫌うことなんてできないんだよ。
どんな命も、最初から光の中にある」

「でも、ぼくは走れないし、みんなにいじめられる」

蓮明はそっと子の背をなでた。

「それでも、君の中にも蓮がある。
まだ咲いてないだけ。
蓮はね、泥の中でしか咲けないんだ。
苦しいところにいるからこそ、咲ける花なんだよ」

その言葉に、子どもは静かにうなずいた。

庵に戻ると、村の者たちが数人、蓮明を待っていた。
かつて、仏の名を口にすることすら遠ざけていた人々だった。

その手には、小さな願いが書かれた布の札があった。

「蓮明さま……いや、蓮明さん。
この祈りを、仏に届けてくれませんか?」

蓮明は深く頭を下げ、布札を一枚一枚、丁寧に手に取った。

「届けましょう。仏にではなく──
“仏であるあなた自身”に、ね」

驚く人々に、蓮明は微笑んだ。

夜。
火が灯され、護摩の煙が昇ってゆく。

蓮明は静かに、両手を組み、祈りを唱える。

オン アビラウンケン バザラダトバン
オン アビラウンケン バザラダトバン……

その声は、山を越え、風に乗り、空へと響く。
どこかで泣いている者に、
どこかで祈りを忘れた者に、
どこかで命を終えようとしている者に──

届いてほしいと願いながら。

すべての命は、最初から光の中にある。

それは教義ではなく、蓮明が旅を通して、魂で掴んだ真理だった。

人が生まれる場所、
苦しむ場所、
歩き続ける場所──
すべてに、大日如来の光は、等しく降りていた。

それに気づいた者は、もはや仏を“外に”探すことはない。

光は、今ここに。

あなたの中に。

🌸 ──了── 🌸

 

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