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神足の門を越えて

それは、ただチャクラを開くだけでは決して到達できない領域だった。

深い瞑想の底、星なき闇の中で彼は目覚めた。背骨の根元、ムーラーダーラの座に眠る力――クンダリニー。それは、三巻き半の螺旋を描き、スヴァヤンブーと呼ばれる神秘の象徴を包み込んでいる。彼女は眠っていた。永劫の静寂の中で、目覚めの時を待ち続けていた。

「だが、これでは足りない…」

賢者の声が、彼の内奥に響いた。

「チャクラを目覚めさせただけでは、神足法には至れぬ。チャクラの力は、ただそこにあるだけでは神力とはならない。それらを統合し、意志によって一つの方向へと導かなければならないのだ。」

彼は深く息を吸った。すでに幾つかのチャクラは目覚め、螺旋状のエネルギーが背骨を駆け上っていた。だが、それはただの個別の光に過ぎない。統合されていない光は、闇を裂くことができない。

「統合の技法…それは、二つある。」

賢者の声が、内なる空間に再び響いた。

「第一に、チャクラが発したエネルギーを自由に操り、意志のままに運ぶための“回路”をつくれ。とくに脳へ通じる回路は、神足法における核心となる。」

「第二に、その回路を現実化するために、神経経路を強化せねばならぬ。とくに、新皮質と視床下部をつなぐ経路を築き直すのだ。」

彼はその言葉を胸に刻んだ。

それは、クンダリニー・ヨーガにはない技法。いや、厳密には、類似した法が一つだけ存在する。

ナディ――スシュムナー管と、イダー、ピンガラ。

古のヨーギーたちが語り継いだ、気の通り道。

だが、神足法はそれを超える。新たな経路、新たな意識の統合、新たなる神経の目覚め。

クンダリニーは、今、静かにその尾を動かしはじめていた。

神足の門を越えて(第二章)
—回路を描く者—

光なき冥府を抜け、彼は再び座に戻った。蓮華座の姿勢で背骨を伸ばし、両手を丹田の前で重ねる。意識は、静かに内へと沈み込んでいった。

「回路を描け…意志をもって、道を織れ…」

賢者の言葉が、あたかも神の語る御言葉のように響く。

彼の脳裏に、一つのイメージが立ち上がる。光の線。赤と青、金と白の光線が、チャクラから放たれ、脊柱を伝い、頭蓋の内奥、脳幹へと集束していく様子。だが、そこにはまだ“道”がない。光は散り、熱は揺れ、意識は乱れる。

「このままでは、エネルギーは空に消える…」彼は自問した。「どうすれば道が生まれる…?」

ふと、心の奥にひとつの記憶がよみがえった。

それは幼いころ、夜の森を歩いたときのこと。草を踏みしめ、石を避け、木の根を感じながら、手探りで道を選んだ。その時、彼の感覚は研ぎ澄まされ、見えぬはずの道が、そこに“在る”と感じられた。

「そうか。道とは、最初に見るものではない。感じるものだ。築くものだ。」

彼は意識を視床下部に下ろし、そこから新皮質へと向かう神経のラインを探った。静寂のなかで、彼の神経系が細かく震えた。存在していなかったはずの経路が、微かに光を帯び、一本の細道となって浮かび上がる。

「開け、神経回路よ。われは汝を描く意志なり。」

その瞬間、胸のチャクラ――アナーハタが強く脈打ち、エネルギーが脊柱を駆けのぼった。やがて光は脳へと到達し、新皮質の中心に淡い輝きを灯した。

新たな回路が、そこに開かれた。

彼の身体が静かに震えた。それは恐れではない。目覚めだった。

 

 

 

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