夕暮れ時の山寺には、静けさの中にかすかな祈りの響きが漂っていた。鐘の音が遠く谷間に消えてゆくと、僧侶の穏やかな声が堂内に響く。
「オン・アミリタ・テイ・ゼイ・カラ・ウン…」
その言葉に込められた力は、千年の時を超えて今もなお、人々の心に安らぎをもたらしている。
この寺の本尊は阿弥陀如来――西方極楽浄土の教主であり、無限の光と命を持つと伝えられる仏だ。かつて阿弥陀如来は、すべての命あるものを救うと誓い、四十八もの願いを立てた。その中でも特に人々の心を掴んだのは、「南無阿弥陀仏」と唱える者を必ず極楽浄土へ導くという願いだった。
「命あるものすべてを救う…」
若い修行僧の秀真(しゅうしん)は、その言葉を何度も心の中で反芻していた。山深いこの寺に来てまだ半年。日々の修行は厳しくとも、阿弥陀如来の慈悲に触れるたびに、彼の心は確かに浄化されていくのを感じていた。
「阿弥陀如来は、ただ遠い存在ではない。私たち一人ひとりを見守り、現世の苦しみを和らげてくださるのだ。」
寺を訪れる人々もまた、極楽往生と現世安穏を願って足を運んでくる。彼らの目には、苦悩と希望が入り混じった光が宿っていた。
ある日、ひとりの老女が寺を訪れた。痩せ細った手には、息子の遺品らしい古びた数珠が握られている。
「どうか、息子を極楽へ導いてください…」
涙を流しながら老女が祈る姿を見て、秀真の胸が痛んだ。その夜、彼は堂内で一心に念仏を唱え続けた。
「オン・アミリタ・テイ・ゼイ・カラ・ウン…」
夜空には満天の星が輝き、その光はまるで阿弥陀如来の限りない智慧と慈悲を映し出しているかのようだった。
翌朝、老女は晴れやかな表情で寺を後にした。その背中を見送りながら、秀真は自らの修行をさらに深めることを決意した。
「阿弥陀如来よ、私もまた、命あるすべてのものを救う一助となる存在でありたい。」
山の頂に昇る朝日が堂内に差し込むと、阿弥陀如来の微笑みがいっそう輝いて見えた。
