リサ・ランドールという若き天才物理学者の提唱する新しい宇宙理論が、
今全米の注目を浴びています。

2006年1月11日号のNewsweekでは、
2006年世界のキーパーソンの一人に選ばれています。
彼女は実験によって素粒子を観察している過程で
突然実験空間から姿を消す素粒子を発見し、
その理論的解明に取り組んだ結果、
私たちが住み、知覚しているこの四次元世界(時間と三次元空間)と密接した形で、
時間、空間ともにひとつ次元の高い、五次元宇宙が存在しているのではないか
という理論に到達したのです。
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Warped Passages: Unraveling The Mysteries Of The Universe’s Hidden Dimensions
五次元宇宙には、四次元世界が折り重なるように多層的に存在し、
その間を重力子を通して情報のやり取りをしているとのことです。
2007年には、スイスのジュネーブに建設中である
世界最大規模の衝突型加速器「大型ハドロンコライダー(LHC)」が完成し、
7兆電子ボルトで加速された陽子同士が正面衝突することにより、
彼女の想像した「五次元宇宙」証明への扉が開かれるかもしれません。
『ワープする宇宙』
『リサ・ランドール 異次元は存在する』の方は「未来への提言」を活字に起こしたもので、100ページ足らずである。宇宙飛行士若田光一氏との対談が主となっていて、『ワープする宇宙』の内容を簡潔に伝えるとともに、内気な数学少女だったハイスクール時代からハーバード大学の教授になり、5次元理論で頭角をあらわすまでのライフ・ヒストリーが語られている。
『ワープする宇宙』は章の頭にアシーナという11歳の少女の物語を置いて、枕にしている。アシーナはタイムマシンで現代にやってきたアイク・ラシュモア42世という未来人に導かれ、『不思議な国のアリス』そこのこけの冒険をして5次元時空の不思議を体験する。ルイス・キャロルが大好きだというランドールらしい趣向である。
ランドールの5次元理論は余剰次元理論の一種だが、余剰次元理論はひも理論から出てきた。ひも理論では万物は振動する微小なひもだと考えるが、3次元でひもを振動させると振幅が宇宙規模に広がってしまうので、9次元+時間の10次元時空で振動を考える。10次元時空の振動だときれいに振幅がおさまるそうだが、3タイプのひも理論ができてしまった。その後、次元を1増やして11次元時空を考えると、3タイプのひも理論が統一的に理解できることがわかった。これをM理論という。10次元時空の3つのひも理論は、11次元時空のM理論の特殊な場合というわけである。
10次元でも11次元でもいいが、われわれが知覚できるのは縦・横・高さの3次元だけである。時間をくわえても4次元にすぎない。残りの次元――余剰次元――はどうなっているのか。
余剰次元はミクロの世界に縮んでいるというのがひも理論の答えである。
ストローを考えてほしい。ストローは離すと一本の線に見えるが、目に近づけてよくよく見るると円筒形をしており、長さにくわえて円周というもう一つの次元をもっている。余剰次元はストローの円周方向のように隠れているというのだ。
余剰次元が本当にあるのかどうかはわからない。10次元にしろ、11次元にしろ、そう考えると式がきれいにまとまるという数学の都合の話であって、実証されたわけではない。だからひも理論でノーベル賞をとった学者はまだいない。
縮んだ余剰次元を説明した条はみごとである。9次元+時間、もしくは10次元+時間であっても、3次元+時間と見なせることを、ランドールはニュートン万有引力の法則を例に説明する。引力は距離の二乗に反比例して弱まっていくが、これはホースで水をまくと、距離の二乗に反比例して水がまばらになっていくようなものだという。距離の二乗になるのは、水のまかれる面積が二乗で増えていくからである。水のまかれる面積が増えれば増えるほど、水はまばらになっていく。それと同じように、重力も距離の二乗に反比例して弱まっていく。
もし余剰次元が縮んでいなかったら、重力は距離の8乗とか9乗で急激に弱まっていただろう。
こんな説明はこれまで読んだことがなかった。しかもこの記述は重力が他の3つの力に較べて桁違いに弱い理由を解明した5次元理論の伏線となっている。
『ワープする宇宙』が長いにはそれだけの理由があるのである。生クリームに砂糖をまぶしたような啓蒙書に物足りなくなっている人には、本書は打ってつけの本といえる。ランドールは先生として第一級にちがいない。